それは、たった一つのホクロから始まりました。
2006年の正月が明けました。前年にチェリーとDRは、日本へ旅行に出かけましたので、今度はDRの故郷、カリフォルニアに出かけることになりました。マイレージが貯まっていたので、フリーチケットを1月14日出発の便で予約していました。
2006年1月12日、DRの電話は騒がしく鳴り響きました。チェリーは、旅支度をしている最中でしたが、DRの様子がおかしい事にすぐに気が付きました。電話で話しながら、肩を震わせているのです。電話を切り、これからすぐに病院へ行くから、一緒に来なさいと言われました。
前年の終わりに、DRは病院に行きました。背中の左上の辺りの大きな黒いホクロから、出血したのが原因でした。ドクターは、ホクロをその場で切除して、念の為に病理検査にまわしました。その結果が先ほどの電話だったのです。
病院に着くとすぐにドクターから話がありました。DRの背中にあった黒いホクロは、普通のホクロではありませんでした。メラノーマという名前の、悪性のガンだったのです。一回目の切除処置で、メラノーマのガン細胞は全て背中からは無くなっているのですが、メラノーマのガン細胞が見つかった場合は、ミクロのサイズで既に転移している可能性を考え、更に二度目の手術で、病巣から10センチほど大きく皮膚を切り取る必要があるとのことでした。ガン宣告は、ショッキングでしたが、私達を更に驚愕させたのは、その進行度と死亡率の高さでした。DRのガン細胞は、既に3.5ミリという深さまで達していて、ステージ3のガンと診断され、5年の生存率は10パーセントにも満たないと言われました。その日の夜、二人でどう家に帰ったかあまり憶えていません。二人で家で泣き続けました。二日後に迫っていた旅行は、緊急に手術が必要とのことで、キャンセルを余儀なくされました。チェリーもDRも一週間の休暇をとっていましたので、そのまま二人で家で泣いて過ごしました。死にたくないよというDR。死んで欲しくないよというチェリー。私達は結婚してまだ1年も経っていませんでした。